第1 本件は、GID当事者である原告は、被告病院にてGIDとして精神科に通院していたが、被告病院で乳房切除手術の治療をうけたところ、左側乳輪が全部壊死、右側乳輪が一部壊死の結果を生じたため、被告病院に対して損害賠償を求める裁判である。
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第2 本件の争点 |
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1 本件は、GID医療の質を問うものである。 |
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(1) 日本精神神経学会の性同一性障害に関する特別委員会(後に「性同一性障害に関する第2次特別委員会」、「性同一性障害に関する委員会」と改称)が出した性同一性障害に関する答申(平成9年5月)及び「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン 第2版」「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン 第3版」によれば、性同一性障害の手術療法にあたっては、
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十分な技量を持った医師が行うこと |
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その、手術療法のリスクを患者に提示し、術式については患者と十分話し合うこと |
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手術療法の前後にあたっては、患者が精神的に不安定な状態になることに鑑みて十分な精神的サポートを行うこと。また、病院は性同一性障害の患者を診るにあたっては、精神科医、泌尿器科医などをさまざまな専門分野の医師で構成される医療チームを作り、チームとして患者の問題点を把握すること |
との記載があり、執刀医および性同一性障害治療を行う病院はこの基準を満たしていることが必要である。
(2) しかし、被告病院での手術療法については、これらのいずれの条件も満たしていなかった。
a 十分な技量を持った医師が行うことという点について(過失)
まず、乳房切除手術を行う執刀医が形成外科の専門医資格を有するのは当然の前提として、その術式で必要な経験症例数を経験していることが必要である。
すなわち、乳房には、さまざまなタイプがあり個人のタイプに適した術式を選択すること、その術式に精通していることが必要である。
この点、第1に、主治医である執刀医は形成外科の専門医資格を有していなかった。
次に、執刀医の技量という点では、経験が浅い医師が執刀にあたった。執刀医の乳房切除手術の経験症例数は20程度であるが、望ましい症例数は100程度であることに鑑みて5分の1の症例経験である。
このように少ない経験数ではあらゆるタイプの乳房に適合する術式の選択及び選択した術式についての技量は備わっていなかった。
執刀医は、
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皮膚の剥離範囲を広くとりすぎた |
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皮膚の剥離による皮弁の形成を薄くしすぎた |
| B |
縫合の際の過度の緊張をかけた |
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乳輪の縫合に十分な技術を習得していなかったといういずれかの過失を侵したため、原告の乳輪の血流の確保が不十分となり、原告の乳輪に壊死の結果を生じせしめた。 |
b 手術療法のリスクを患者に提示し、術式については患者と十分話し合うことという点について(説明義務違反)
原告は、壊死のリスクに対して何回も医師に対して質問をしたがこれに対して、医師は壊死のリスクは想定しなくてよいと答えた。
医師は、原告に対して、術前検査の際説明をした術式と異なる術式を手術前日夕方に突然提示した。この際、医師は原告に対してリスクは以前説明した術式と同じとの説明をした。
原告は、術式の変更により手術のリスクが増すのであれば、術式の変更には応じられない旨をのべたが、リスクは変わらないという医師の説明を信じ、また、手術日前日で緊張していることもあり、新たに提案された術式について十分検討する機会を奪われたまま本件術式に同意をしたのである。
c 手術療法の前後にあたっては、患者が精神的に不安定な状態になることに鑑みて十分な精神的サポートを行うこと。また、病院は性同一性障害の患者を診るにあたっては、精神科医、泌尿器科医などをさまざまな専門分野の医師で構成される医療チームを作り、チームとして患者の問題点を把握することという点について
手術後退院した原告は、乳輪の色が不自然であることに気付き、何回も壊死の危険性について、執刀医に相談したが、執刀医は壊死の危険性はないとの返答をするのみであった。
これに対して、不安を感じ原告の精神状態は非常に悪化した。執刀医は、原告の精神状態に十分配慮し、必要であれば精神科医と連携を取り、患者の精神的サポートをする立場にあったにも拘わらず、なんら、被告に対してサポートをせず、これを放置した。
また、精神科主治医と執刀医の連携も不十分であり、主治医である精神科医師が原告の手術を知ったのは術後であった。
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2 損害について |
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本件裁判では、乳輪喪失についての損害は当然であるが、GIDを有する者にとっての生活の質(QOL)をも問題としている。
原告は、長期間にわたって、自己の認識する性と、性的な外貌的特徴との解離に悩んでいた者である。
原告が望んでいた生活は、上半身を躊躇なく見せられるような生活、を望んでいた。
しかし、手術の結果原告の乳輪が壊死してしまったため、手術の失敗の痕は原告の乳房を想起させるだけでなく、手術の失敗に伴う精神的苦痛を想起させるものとなった。そのため、原告にとって、上記の生活を送ることは困難となった。
このため、原告は、この損害が後遺障害にあたるとして、後遺障害別等級表に準拠した損害賠償請求を求めている。
この際、原告の後遺障害は、「12級相当 14 女子の外貌に醜状を残すもの」に匹敵するとしている。
後遺障害別等級表の「女子の外貌」に匹敵するとしたのは、これまでの原告のライフヒストリーに鑑みて、その喪失態様は、女子の外貌に匹敵すると考えたためである。
また、原告が望んでいた生活が得られなくなったことに対する喪失感の大きさに鑑みて、精神的な損害の賠償(慰謝料)も求めている。
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